未明の記憶 (2023)

勝見里奈写真展

『未明の記憶』

今になって、右手の人差し指に小さなかさぶたがあることに気がついた。

それは引っ越しの時にできたものだった。

今年の春まで住んでいた部屋はアパートの3階にあったから 段ボールを抱えて、せまい階段を下るのにすりむいてしまったのだ。

もう帰ることのない部屋の痕跡が、指の上に残っていた。

過ぎたことは大きな一枚の布のようにひらたく横たわっている。

わたしたちには現在しかないのに、

小さなかさぶたがもたらすほころびが、時に脳裏で乱反射する。


( ゼラチンシルバープリント )

Rina KATSUMI PORTFORIO

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